ミリタリー

 米国が2020年代に国際協力で目指す有人月探査計画が具体化に向けて動き出す。月の上空に基地を建設し、将来の有人火星飛行にもつなげる壮大な計画だ。参加を決めた日本は今年から本格的な検討に入るが、巨額の費用負担など課題は多い。


 ◆得意技術で貢献


 月基地の建設構想は米航空宇宙局(NASA)が2年前に公表した。1960年代の米アポロ計画以来となる有人月探査で、2030年代の火星飛行に必要な技術の獲得も進める。NASAは国際宇宙ステーション(ISS)で協力関係にある日露欧、カナダなどに参加を要請。トランプ米大統領は「米国人を月に戻す」と表明し、昨年2月には関連経費を盛り込んだ予算教書を発表した。


 これを受け日本政府は昨年末、計画に参加する方針を決め、宇宙基本計画の工程表に「国際調整や具体的な技術検討、技術実証を主体的に進める」と明記した。議論を進めた宇宙政策委員会の●西敬之(よしゆき)委員長は「米国の意思が明確になったことが一番の牽引(けんいん)材料になった」と説明する。


 今後は日本が担う役割を具体的に検討し、国際交渉を進めていく。宇宙飛行士の大西卓哉さんは「日本はISSの実験棟きぼうでの有人滞在や、物資補給機こうのとりの技術が得意分野。これらを生かし貢献するとよい」と期待を語る。




 ◆月面着陸が目標


 計画案によると、基地は月を南北に回る楕円(だえん)軌道を周回。質量は約70トンとISSの6分の1で、NASAが開発中の大型ロケットで区画ごとに打ち上げる。まず電力供給や軌道制御を担う心臓部を22年に打ち上げ、翌年に実験棟などを設置して飛行士4人が滞在を開始。24年に日欧が共同開発する居住棟を結合するなど徐々に継ぎ足す形で建設を進め、26年ごろに完成させる。


 居住棟は飛行士が生活する空間だ。日本は空気の浄化や水の再生、温度制御など生命維持に必要な装置の開発を検討する。飛行士が常駐しているISSとは異なり、初期には年に1回、約30日だけ滞在する。有人宇宙船は米露、食料などを運ぶ物資補給機は日米が提供する可能性がある。


 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は欧州宇宙機関(ESA)と共同で、基地と月面を行き来する離着陸機の開発を狙う。JAXAが着陸機を担当し、30年ごろの月面着陸を目指しており、実現すれば日本人が降り立つ可能性が高まりそうだ。




 ◆国は情報発信を


 ただ、課題も山積している。基地には日本が単独で建設するきぼうのような実験棟がないため、実験が他国の後手に回り「研究者が失望するのでは」といった不安の声も聞かれる。最大の焦点はコストだ。基地の建設費は最大4200億円とされ、各国の分担比率は決まっていない。さらにロケットや宇宙船、探査機も含めると、35年ごろまでの総費用は十数兆円に達するとみられている。


 日本が仮にISSと同じ比率で費用を負担すると、総額は1兆円以上に及ぶ。葛西氏も「国の予算が逼迫(ひっぱく)する中、どうしたら必要な財源を獲得できるかが最大の課題」と認める。JAXAは当面、年間約400億円のISS費用と同水準の予算で済むとみているが、計画の遅れなどで負担増大の恐れを指摘する声も根強い。


 30年前に当時のブッシュ米大統領は、アポロ宇宙船による初の月面着陸から半世紀となる今年までに、人類が火星に降り立つとの目標を掲げたが、実現しなかった。宇宙活動には大幅な遅れや中止がつきものだ。


 こうしたリスクを負いながら日本が挑戦するには、国民的な議論と合意が不可欠だ。政府は宇宙政策委員会の審議を非公開とするなど議論の広がりに前向きとは言い難い。人類史に残る一大事業だけに、月探査の狙いや必要性について、分かりやすく情報発信することが求められる。