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 2024年6月に「改正子ども・子育て支援法」が成立して以降、“独身税”というワードがネット上で話題になっています。このワードは、2026年4月から徴収が始まる「子ども・子育て支援金」を指し、ネット上では、「なぜ独身者も負担しなければならないのか」「まるで独身税ではないか」という内容の意見が上がっています。


 評論家の真鍋厚さんは、このような少子化対策を巡り、ネガティブな反応が巻き起こるのは珍しいケースではないとしつつ、この子ども・子育て支援金制度には、独身者や子どもがいない夫婦に対する、無自覚的な差別を助長している面があると主張します。この制度から見えた、日本社会に根付く旧態依然とした価値観について、真鍋さんが解説します。


独身者が損をする制度


 子ども・子育て支援金は少子化対策の財源に充てる目的で、健康保険や国民健康保険といった医療保険の保険料に上乗せする形で徴収されます。


 こども家庭庁によると、子ども・子育て支援金の負担額の目安は、年収400万円の会社員・公務員で月額650円、自営業で月額550円、年収600万円の会社員・公務員で月額1000円、自営業で月額800円などとなっています。


 要するに、すでに子育てを終えた人や子どもをつくる予定のない人にとっては、単に取られる一方で負担が増す制度となっているのです。このような仕組みについて「子育て支援税」という名称がふさわしいという意見も出ているほどで、将来的に値上げされる可能性が高いのではないかと思われます。


 そもそも税制において独身者が損をしていることは事実と言える面があります。独身者と既婚者で適用される所得控除が異なり、既婚者の方が適用される所得控除が多いからです。これが実質的に独身税の役割を果たしていると指摘する専門家もいます。そして、この税制の正当性を支えているのは、「所帯を持つのが当たり前」という価値観なのです。


 もともと、日本では近代社会が始まった時点から、「国民皆婚」による家族形成が当然とされ、諸制度はそれを支えるつくりになっていました。例えば、今から40年以上前の1980年の生涯未婚率は、男性が2.60%、女性が4.45%という今では考えられない驚くべき数字でした(国立社会保障・人口問題研究所の国勢調査)。


 そこに「子どもがいる家族」を標準モデルとする日本特有の差別意識がうまくはまったのです。大阪のシステムソフトウェア会社が2019年、「いい年していつまでも独身の人は信用しないし、既婚でも子どもがいるかどうかで信用度は異なるということなんです」などとツイッター(現在のX)に投稿し、非難の的になりましたが、これは氷山の一角に過ぎません。職業や社会生活における独身者への偏見は、今も根強く存在しています。


 筆者は現在40代半ばですが、同年代の男性や一回り上の地方出身者の男性から「独身だと一人前として認めてもらえない」「地元に帰ると半人前扱いされる」などという話をよく聞きました。この場合、だいたいにおいて結婚と子づくりがセットになっているため、いわゆる「子なし夫婦」も差別の対象になります。


 もちろん、子どもをつくれない場合や、夫婦共働きであえて子どもを持たないライフスタイルを表すDINKs(ダブルインカムノーキッズ)など、「子なし夫婦」の事情はさまざまです。


 しかし、「所帯を持つのが当たり前」という価値観が残っている人々は、「結婚しない人間はどこかに問題がある」「子どもをつくらないのはおかしい」という差別意識を持っていることが多く、相手のことなどお構いなしに自分の“常識”を押し付けてきます。


 戦後の日本の占領政策に関わり、有名な『菊と刀 日本文化の型』(長谷川松治訳、講談社学術文庫)を著した米国の文化人類学者のルース・ベネディクトは、「日本の親たちが子どもを必要とするのは、単に情緒的に満足を得るためばかりではなく、もし家の血統を絶やすようなことになれば、彼らは人生の失敗者となるからである」と、先述の価値観の根底にある固定観念を暴きました。


子どもを持たぬ妻の家庭内の地位はきわめて不安定なものであって、たとえ離縁されないとしても、さきざき姑となって、息子の結婚について発言権をもち、嫁に対して権力を振るう日の到来することを楽しみにして待つわけにはいかない。彼女の夫は、家系を絶やさぬために、男の子を養子にもらうであろうが、それでもなお彼女は、日本人の観念に従えば、敗者である(『菊と刀 日本文化の型』)


 かつての日本では、子どもをつくらないこと、子どもがいないことが「欠陥」とされ、「半端もの」と考えることが世の中に広く共有されていました。子どもを産めない女性は「石女」(うまずめ)と呼ばれ、公的な場から排除されることもあったといいます。ピラミッドの頂点に「子持ち夫婦」がいて、その下に「子なし夫婦」、その下に「独身者」というふうに序列化されていたのです。


 ルース・ベネディクトが日本の家庭生活の根幹になっているとした「性別と世代の区別と長子相続権とに立脚した階層制度」(前掲書)がそのような差別的な処遇を作り出したのです。これは、現在のように「家の血統」が大して重要視されなくなった後も、「再生産していないことは、社会的な責任を果たしていない」という内容のフレーズとして延命しました。


社会の分断が進む可能性も


「独身者」や「子なし夫婦」への風当たりは、いわば無自覚な差別意識の産物といえます。しかも、先述の子ども・子育て支援金制度のような、制度的な優遇措置があることによって、この差別意識を当然とみなす感覚を補強している面があります。そのため、差別意識はなかなかなくならず、既婚者と未婚者との間、子どもがいる人と子どもがいない人との間の静かな断絶は広がっていくことになります。


 今回の「子ども・子育て支援金」が、SNS上で「独身税だ」という批判で埋め尽くされたのは、これまでの損な役回り、不当な扱いを経験させられてきた立場を考えれば、無理もないと言えるところがあります。


 また、1990年代から始まった日本経済の停滞、いわゆる「失われた30年」により家族形成が困難になり、「所帯を持つ」こと自体がぜいたく品と化していることも大きく影響しています。昭和時代に典型的だった「夫婦と子ども2人」といった家族構成は、とりわけ経済レベルで恵まれた人々しか得ることのできない狭き門になっているからです。


 加えて、ライフスタイルの多様化が進むことによって、結婚や子育てはもはや「趣味」のカテゴリーに近づきつつあり、新しい税の徴収などに対する理解はますます得づらくなるでしょう。


 いずれにしても、国の政策の失敗が主な原因ですが、「世間」のスタンダードから外れた人々を自分よりも下に見ることで、自分の努力や苦労を意義あるものに変え、自尊心を守ろうとしてきたマジョリティーの一部にも責任があります。すでに説明したように、社会経済状況を無視して、個人の失敗として片付けたからです。


 今後、子ども・子育て支援金制度などをはじめとするいびつな少子化政策を改善していく必要がありますが、果たして社会全体で取り組む機運が高まるかどうかは、かなり怪しくなってきています。このことを私たちはもっと深刻に受け止めるべきでしょう。


まるで独身税!? 2026年度から「子育て支援金」徴収 制度に潜む未婚者、子なし夫婦への“無自覚な差別”

 2024年6月に「改正子ども・子育て支援法」が成立して以降、“独身税”というワードがネット上で話題になっています。このワードは、2026年4月から徴収が始まる「子ども・子育て支援金」を指し、ネット上では、「なぜ独身者も負担しなければならないのか」「まるで独身税ではないか」という内容の意見が上がっています。


 評論家の真鍋厚さんは、このような少子化対策を巡り、ネガティブな反応が巻き起こるのは珍しいケースではないとしつつ、この子ども・子育て支援金制度には、独身者や子どもがいない夫婦に対する、無自覚的な差別を助長している面があると主張します。この制度から見えた、日本社会に根付く旧態依然とした価値観について、真鍋さんが解説します。


独身者が損をする制度


 子ども・子育て支援金は少子化対策の財源に充てる目的で、健康保険や国民健康保険といった医療保険の保険料に上乗せする形で徴収されます。


 こども家庭庁によると、子ども・子育て支援金の負担額の目安は、年収400万円の会社員・公務員で月額650円、自営業で月額550円、年収600万円の会社員・公務員で月額1000円、自営業で月額800円などとなっています。


 要するに、すでに子育てを終えた人や子どもをつくる予定のない人にとっては、単に取られる一方で負担が増す制度となっているのです。このような仕組みについて「子育て支援税」という名称がふさわしいという意見も出ているほどで、将来的に値上げされる可能性が高いのではないかと思われます。


 そもそも税制において独身者が損をしていることは事実と言える面があります。独身者と既婚者で適用される所得控除が異なり、既婚者の方が適用される所得控除が多いからです。これが実質的に独身税の役割を果たしていると指摘する専門家もいます。そして、この税制の正当性を支えているのは、「所帯を持つのが当たり前」という価値観なのです。


 もともと、日本では近代社会が始まった時点から、「国民皆婚」による家族形成が当然とされ、諸制度はそれを支えるつくりになっていました。例えば、今から40年以上前の1980年の生涯未婚率は、男性が2.60%、女性が4.45%という今では考えられない驚くべき数字でした(国立社会保障・人口問題研究所の国勢調査)。


 そこに「子どもがいる家族」を標準モデルとする日本特有の差別意識がうまくはまったのです。大阪のシステムソフトウェア会社が2019年、「いい年していつまでも独身の人は信用しないし、既婚でも子どもがいるかどうかで信用度は異なるということなんです」などとツイッター(現在のX)に投稿し、非難の的になりましたが、これは氷山の一角に過ぎません。職業や社会生活における独身者への偏見は、今も根強く存在しています。


 筆者は現在40代半ばですが、同年代の男性や一回り上の地方出身者の男性から「独身だと一人前として認めてもらえない」「地元に帰ると半人前扱いされる」などという話をよく聞きました。この場合、だいたいにおいて結婚と子づくりがセットになっているため、いわゆる「子なし夫婦」も差別の対象になります。


 もちろん、子どもをつくれない場合や、夫婦共働きであえて子どもを持たないライフスタイルを表すDINKs(ダブルインカムノーキッズ)など、「子なし夫婦」の事情はさまざまです。


 しかし、「所帯を持つのが当たり前」という価値観が残っている人々は、「結婚しない人間はどこかに問題がある」「子どもをつくらないのはおかしい」という差別意識を持っていることが多く、相手のことなどお構いなしに自分の“常識”を押し付けてきます。


 戦後の日本の占領政策に関わり、有名な『菊と刀 日本文化の型』(長谷川松治訳、講談社学術文庫)を著した米国の文化人類学者のルース・ベネディクトは、「日本の親たちが子どもを必要とするのは、単に情緒的に満足を得るためばかりではなく、もし家の血統を絶やすようなことになれば、彼らは人生の失敗者となるからである」と、先述の価値観の根底にある固定観念を暴きました。


子どもを持たぬ妻の家庭内の地位はきわめて不安定なものであって、たとえ離縁されないとしても、さきざき姑となって、息子の結婚について発言権をもち、嫁に対して権力を振るう日の到来することを楽しみにして待つわけにはいかない。彼女の夫は、家系を絶やさぬために、男の子を養子にもらうであろうが、それでもなお彼女は、日本人の観念に従えば、敗者である(『菊と刀 日本文化の型』)


 かつての日本では、子どもをつくらないこと、子どもがいないことが「欠陥」とされ、「半端もの」と考えることが世の中に広く共有されていました。子どもを産めない女性は「石女」(うまずめ)と呼ばれ、公的な場から排除されることもあったといいます。ピラミッドの頂点に「子持ち夫婦」がいて、その下に「子なし夫婦」、その下に「独身者」というふうに序列化されていたのです。


 ルース・ベネディクトが日本の家庭生活の根幹になっているとした「性別と世代の区別と長子相続権とに立脚した階層制度」(前掲書)がそのような差別的な処遇を作り出したのです。これは、現在のように「家の血統」が大して重要視されなくなった後も、「再生産していないことは、社会的な責任を果たしていない」という内容のフレーズとして延命しました。


社会の分断が進む可能性も


「独身者」や「子なし夫婦」への風当たりは、いわば無自覚な差別意識の産物といえます。しかも、先述の子ども・子育て支援金制度のような、制度的な優遇措置があることによって、この差別意識を当然とみなす感覚を補強している面があります。そのため、差別意識はなかなかなくならず、既婚者と未婚者との間、子どもがいる人と子どもがいない人との間の静かな断絶は広がっていくことになります。


 今回の「子ども・子育て支援金」が、SNS上で「独身税だ」という批判で埋め尽くされたのは、これまでの損な役回り、不当な扱いを経験させられてきた立場を考えれば、無理もないと言えるところがあります。


 また、1990年代から始まった日本経済の停滞、いわゆる「失われた30年」により家族形成が困難になり、「所帯を持つ」こと自体がぜいたく品と化していることも大きく影響しています。昭和時代に典型的だった「夫婦と子ども2人」といった家族構成は、とりわけ経済レベルで恵まれた人々しか得ることのできない狭き門になっているからです。


 加えて、ライフスタイルの多様化が進むことによって、結婚や子育てはもはや「趣味」のカテゴリーに近づきつつあり、新しい税の徴収などに対する理解はますます得づらくなるでしょう。


 いずれにしても、国の政策の失敗が主な原因ですが、「世間」のスタンダードから外れた人々を自分よりも下に見ることで、自分の努力や苦労を意義あるものに変え、自尊心を守ろうとしてきたマジョリティーの一部にも責任があります。すでに説明したように、社会経済状況を無視して、個人の失敗として片付けたからです。


 今後、子ども・子育て支援金制度などをはじめとするいびつな少子化政策を改善していく必要がありますが、果たして社会全体で取り組む機運が高まるかどうかは、かなり怪しくなってきています。このことを私たちはもっと深刻に受け止めるべきでしょう。



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