業界団体のまとめによると、日本の2024年の中古車輸出台数は前年比2.0％増の156万6,621台と４年連続のプラスだった。

注目すべきは金額で前年比17.4％増の１兆5,404億円、４年前（20年）の5,373億円から186.7％増と３倍近い伸びだった。

競合国をみると、左ハンドル国で優勢な韓国の輸出は1.7％減の62万7,875台だったが、19年に輸出を開始した中国は40万台と急伸している。

しかし、自動車流通市場研究所の中尾聡理事長は、補修パーツの充実や下取り価格が良いことなど、日本の中古車の優位性は続くと指摘する。

中尾氏に中古車輸出の展望を聞いた。

中古車相場高騰が要因

――自動車流通市場研究所のまとめでは24年に輸出は１兆5,000億円を突破した。

日本の中古車相場は23年は「歴史的」な高値で、24年はそれを超え「異次元」と業界では言われた。23年半ばから約１年間、軽自動車を中心にメーカーの認証不正問題で、生産・販売ができず、買い換えの「下取り車」が出回らなかったため高騰したのは分かる。しかし、生産再開後も相場は下がらない。今年に入っても高騰が続く「想定外」の状況だ。４年で2.9倍の輸出額になったのは台数増（この間に台数は47.5％増）に加え、台当たり単価が上がったことが大きい。輸出に主導された中古車相場は長期的にみれば上昇は続くだろう。

――円安の影響があるのでは。

昨年はフーシ派の紅海航行船舶の攻撃により、スエズ運河ではなくアフリカ大陸の喜望峰経由を余儀なくされた輸送費の高騰やコンテナ不足で、輸入国側の円安メリットは相殺されている。

日本人が丁寧に使う高品質で、欠陥箇所や相場が透明化された安心の「安い」中古車。その需要が世界中にある。

ロシアに直接20万台、旺盛な「未使用車」需要

――日本中古車輸出業協同組合のまとめでは、アフリカ各国向けは35万台強と、アジアの61万台に次いで好調だ。

アラブ首長国連邦（ＵＡＥ）への輸出22万台強の半分以上はアフリカ向けと推定される。低価格車両のアフリカの需要は底堅いし、今後も伸びる。

今年は、２月１日に自家用車の輸入が５年ぶりに解禁となったスリランカが注目される。スリランカは18年には７万台を輸出していた。既に輸出が始まっており、業界は「スリランカ効果」に期待している。

――ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁として日本政府は22年４月に１台600万円を超える高級車のロシア向け輸出を禁止したほか、23年８月にはハイブリッド車（ＨＶ）や電気自動車（ＥＶ）、商用車を含む1900ｃｃ超の車両の輸出も禁じたが、日本からロシアへは依然として20万台も輸出されている。

日本や韓国、欧州のメーカーが撤退したロシアの新車市場は現在、地場と中国メーカーで占められている。しかし、ロシアの富裕層は、地場や中国メーカーの車に満足しない。依然として、日・韓・欧の高級で、新車同然の「未使用車」が中古車として輸出されており、ロシアの需要は当面、衰えることはない。

日本から直接ロシアへ輸出される中古車の単価は安いが、モンゴルやジョージア、韓国を経由して再輸出される中古車の単価は高い。

韓国からは、キルギスやアゼルバイジャンなど中央アジア・カフカスの国からロシア向けに再輸出されている。アルメニアへの輸出が前年比で100倍以上の２万5,000台強となっており、ロシア向け再輸出国として注目される。

韓国・中国車はライバルになるか

――韓国は昨年よりも台数を落としたが、19年に輸出を解禁したばかりの中国が約40万台と急成長している。日本の中古車にとって脅威とならないか。

韓国は、国内の新車販売減に加え、紅海・スエズ運河経由で輸出される国への輸出が多いことが影響しマイナスとなった。地中海に面した左ハンドルの北アフリカ各国は韓国車が強く、影響を受けたリビア・エジプトが大幅なマイナスだった。

サハラ以南のアフリカは左ハンドル国でも日本車の牙城だ。

以前は韓国車が強かったが日本車が席巻しつつある。

日本から韓国へ輸出された１万4,666台のほとんどは再輸出される。

中国の輸出はＥＶの未使用車の比率が多いようだ。ＥＶの下取り価格は、ガソリン車よりは安いのは明らか。補修パーツの安さや壊れにくい日本車との競合には至っていない。

中国の業界団体からも協業できる企業はないかと相談が来る。日本の輸出ネットワークに「便乗」したいのだ。しかし、中国の中古車は「品質」が保証されておらず、日本側は消極的だ。

マレーシア向け平均400万円

――自国の自動車生産保護のため新車輸入を禁止している国や中古車輸入税率が安い国にも、「未使用車」の輸出が多い。

未使用車は、日本のディーラーで新車としていったん登録され、その後ディーラーもしくは購入者が抹消して輸出する車両だ。マレーシアへのＦＯＢ（本船渡し）価格は１台当たり平均で400万円を超え、主要輸出国では最も高い。トヨタ自動車の高級車「ヴェルファイア」「アルファード」が多い。マレーシアは、マレー系国民と先住民を優遇するブミプトラ政策による優遇の輸入枠があり、車齢１年以上５年未満の輸入が認められている。新車同様の状態で１年間「寝かせて」輸出される。

シンガポールは２年未満の未使用車の輸出がほとんどだ。

――日本の自動車生産や販売を中古車輸出が支えていることが分かる。

国内の自動車産業で唯一の右肩上がりの成長分野だ。

メーカーも中古車輸出に注目している。先日、あるメーカーの関係者と面談したが、（ガタガタ道が多い新興国の事情に合わせ）車高を上げるなど、中古車としての輸出も視野に入れた新車開発を進めているという。

メーカーが中古車事業やアフターセールスに関与し、補修用の純正部品を安く中古車輸出国へ供給すれば、中古車の下取り価値も上昇し、メーカーの新車販売増にも間接的なプラスとなる。この循環は韓国や中国メーカーにはできない、日本の強みだ。