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次の韓国大統領も「日本のせいで中国包囲網には加われない」と責任転嫁する――すでに張られた“伏線” 鈴置高史氏が読む


 次期大統領の最有力候補、李在明(イ・ジェミョン)氏が「反米従中」の本性を現し始めた。もちろん米国は怒る。そこで「米国側に立てないのは歴史問題を反省しない日本のせいだ」と言い訳する作戦に出ると韓国観察者の鈴置高史氏は見る。
米国の敵に内通する李在明
鈴置:李在明候補の外交に関する発言はカメレオンのように変化します。もともと韓国では極め付きの反米従中派と見なされていました。日本からの解放の立役者と見なされてきた米軍を「占領軍」と呼び、物議を醸したことがあります。

 最大野党「共に民主党」の代表というのに、駐韓中国大使に呼びつけられて中国大使館まで出向き「外交儀礼に反する卑屈な姿勢」と韓国の保守系紙から厳しく批判されたこともあります。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する1回目の弾劾訴追案でも、「共に民主党」は理由に「大統領が北朝鮮、中国、ロシアに敵対的であり、北東アジアで韓国を孤立させ、あまりに親日的である」ことを挙げました。

 これを見た米国は李在明氏と「共に民主党」に対する疑念を深めました。例えば、米下院外交委員会で東アジア・太平洋小委員会の委員長を務めるY・キム(Young Kim)議員(共和党)は「共に民主党」こそは米国の敵への内通者と主張したのです。



・韓国では大統領弾劾を主導する党派を含め、いくつかの党派が米韓同盟と米韓日の三角協力を壊そうとしてきた。
・中国共産党や北朝鮮政権といった我々の敵は、我が同盟の弱みにつけ込んで不安定な状況を利用する方法を模索している。韓国における政治的不安定と反米プロパガンダの高まりは我々の敵に青信号を灯す。



慌てて「親米路線」に転換のフリ

 韓国人の米国に対する感情は複雑なものがありますが、大統領選挙では米韓同盟を否認する候補は勝てません。北朝鮮と対峙する以上、米国との同盟は必要不可欠と考える人が多いのです。どの世論調査を見ても国民の90%前後が同盟の存続を望んでいます。

 米国の厳しい反応はY・キム議員の寄稿以前から高まっていましたが、李在明氏はそれを見て慌てて親米路線に転じました。2024年12月23日には駐韓米国大使と会い「韓米日の協力関係は続く」と述べ、尹錫悦政権が力を入れてきた3カ国の安保協力体制を引き継ぐと約束しました。

 同月26日には駐韓日本大使にも会って「私は日本に[対する]愛情が深い」と語りました。少し前まで「日本は敵性国家」と決め付けていたのと比べ、180度の変わりようです。

 2025年1月17日には「自由・民主陣営の一員としての役割・責任を一層強化する」「韓米同盟はさらに強化されるだろう」と、「共に民主党」の会議で述べました。

 保守系紙、朝鮮日報は「『中国にシェシェ』と言っていたのに今度は『米国に感謝』…李在明の最大のリスクは外交」(1月20日、韓国語版)で、身代わりの速さを痛烈に皮肉りました。



台湾有事には中立


 もっとも、「にわか親米」の寿命は短かった。大統領選挙の世論調査で李在明候補が圧倒的に有利との結果が出ると、米中等距離外交を再び打ち出して「先祖返り」したのです。

 5月13日、李在明候補は大邱(テグ)での遊説で「中国にもシェシェ(謝謝=ありがとう)、台湾にもシェシェ。台湾と中国が喧嘩しようがどうしようが、我々と何の関係があるのか」と語りました。

「中台双方にシェシェ」は2024年3月以来の李在明候補のキャッチフレーズで、中国の台湾侵攻の際、米国が台湾支援に乗り出しても韓国は協力すべきではない、との主張です。台湾防衛に在韓米軍の兵力を投入させないとの含意もあります。

 当然、保守から「米国との同盟を壊す」と非難されてきました。それもあって選挙戦では封印してきましたが、ついにこの日「シェシェ発言」を再開したうえ「[私は]間違ったことを言ったか?」と開き直ったのです。

 朝鮮日報は「シェシェ発言」的な姿勢が米国との同盟に亀裂をもたらすと警告しました。ワシントン特派員の金隠仲(キム・ウンジュン)記者が米国の朝鮮半島専門家8人に緊急インタビューしたほどです。

「李の『シェシェ発言』に米専門家たち『朝鮮半島と台湾は別々でない』」(5月15日、韓国語版)は「台湾防衛に協力しないというなら米韓同盟の存続に疑問符が付くぞ」といった米識者の声を紹介しています。

 しかし、当選に自信を深めた李在明候補は馬耳東風。米国からの警告を完全に無視しました。5月18日には有力候補のテレビ討論会で「米国や日本との安全保障面での協力は必要」としつつも「台湾有事に我々があまり深く関与しすぎる必要はない。距離を保たなくてはいけない」と改めて「有事の中立」を主張したのです。

絶対に日本の責任を問う
――「李在明の韓国」は米中間で板挟みになること必至です。どうするつもりでしょうか。

鈴置:奥の手があります。米国の前では「同盟強化」の旗を掲げて見せる。もし、具体的な軍事協力を求められたら「韓米軍事協力は日本との軍事協力につながる。だが、歴史問題で謝罪しない日本との協力は国民感情が許さない。したがって米国とも協力できない」との屁理屈をこねるつもりでしょう。

 すでに伏線を張っています。李在明候補は5月9日、日本に対する討論会に以下のような祝辞を寄せました。聯合ニュースの「李在明氏『日本は重要なパートナー』 韓国大統領の有力候補」(5月9日、日本語版)から引用します。

・日本は韓国の4番目の貿易相手国であり、両国の安全保障協力は北東アジアの平和と韓国の繁栄をけん引してきた韓米日の安全保障同盟の基盤でもある。
・今、韓国は地政学的な秩序の大転換期に立っている。緻密かつ繊細な外交解決策で両国の友好関係を強化し、国益を得なければならない。

――日本との安保協力を肯定的に評価しましたね。

鈴置:米国を意識してそう言っているだけです。祝辞には続きがあるのです。

・両国の前には依然として過去の歴史、福島の汚染水放出など複合的な課題が残っている。特に歴史問題は未来志向的な関係構築のため必ず解決しなければならない課題だ。
・対話と協力を通じた相互尊重と信頼、責任ある姿勢が伴ってこそ韓日関係はさらに成熟することができる。


植民地支配の不法性を認めさせる
――なるほど! 「歴史問題は必ず解決すべき問題」と来ましたね。

鈴置:「歴史問題では一歩も引かない」との意思表明です。つまりは日本との安保協力の拒否、引いては米国との軍事協力の暗黙裡の否定です。

 李在明陣営の外交ブレーンである高麗大学の任爀伯(イム・ヒョクベク)名誉教授も日本経済新聞のインタビューに答え、以下のように語っています。

「李在明氏の外交、米韓同盟軸の『実用主義』 陣営ブレーンに聞く」(5月19日)から引用します。

・過去の問題は非常に難しい。共に民主党は歴史問題の解決を重要なアジェンダと考えている。そのため日本が真摯な態度をとらないと強硬な立場を取る議員が出てくる。未来志向的な協力関係を構築することが難しくなる。

 日本が言うことを聞かないと首脳会談も開いてやらないぞ。それでいいのか、との脅しでしょう。韓国は今、国を挙げて植民地支配は不法だったと日本に認めさせようとしています。

 日本企業に対し、いわゆる元「徴用工」に賠償金を払わせたり、日本政府には元「従軍慰安婦」に対し賠償させる形で、搦め手から「不法性」を認めさせる手口です。

 日本は岸田文雄政権でさえ、これを認めなかった。韓国は元「徴用工」や元「慰安婦」を利用して日本との対立を表面化させ、米国と軍事協力できない、と言い張る可能性が高い。

舐められた謝罪派=イシバ
――脅せば日本は言うことを聞くとの目算があるのですか。

鈴置:目算というほどのものはなく、とりあえず脅してみよう、くらいの感じかと思います。石破茂首相は東亜日報に対し「韓国がいいと言うまで日本は謝るべきだ」と繰り返し語っています。

「『韓国が納得するまで謝る』イシバは“第2のハトヤマ政権”だ…尹錫悦が期待する根拠」をご覧ください。「弱腰の石破」が政権に就いたチャンスを韓国が見逃すはずがありません。任爀伯教授も日経に次のように述べています。

・故安倍晋三元首相が韓国に強硬だったので、石破首相のイメージはそれほど悪くはない。石破首相はそれ以前の首相とは少し異なり、実用主義的に向き合ってくるだろうと我々は考えている。

――石破首相も舐められたものですね。

鈴置:自業自得です。安倍政権を批判するために、朝日新聞などのリベラルに受けのいい「謝罪派」を演じて見せたツケが今、回っているのです。

 それに安倍首相はトランプ(Donald Trump)大統領と関係が極めて良好だったので、韓国は日本に対し「米国のテコ」を使えなかった。一方、石破首相はトランプ大統領から露骨に小物扱いされている。

 初の首脳会談でも冒頭の28分間、日本の事務方がメモを入れて阻止するまでトランプ大統領は「頭撮り」を続け、石破首相を無視して記者団と会話を続けたのです。「小物」を扱ういつものやり方です。文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対しても30分間の会談予定というのに28分間、頭撮りしたことがあります。

 韓国人は他人の弱点を見抜くのに長けていて、必ず利用してきます。今、米国を後ろ盾に脅せば、日本は言うことを聞かざるを得ないとも判断したのでしょう。日本人とすれば、こんな時に総裁=首相に石破氏を選んだ自民党を恨むしかありません。


元祖は盧武鉉
――李在明外交は隅に置けませんね。

鈴置:「謝罪しない日本」を利用して中国包囲網に加わらないのは李在明氏の発明ではありません。韓国の常套手段です。日本人が日韓関係を「日韓」だけから見て「米中」の従属変数として考えないので、見落としているだけなのです。

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権(2003-2008年)も就任当初は日本との関係改善に積極的でした。しかし、米国が在韓米軍を中国牽制に活用しようとしたため突然、日本との関係を悪化させました。そして中国包囲網に加わらない理由に仕立て上げて行ったのです。 

 保守ながら「離米従中」路線をとった朴槿恵(パク・クネ)政権(2013-2017年)も、事あるごとに日本を侮蔑して見せ、日韓関係の悪化に務めました。

 もっとも当時、米国の副大統領だったバイデン(Joe Biden)氏は「本当は中国と敵対する根性がないだけ」と朴槿恵大統領の反日の真意をすっかり見透かしていましたが。

 従北従中の左派、文在寅政権(2017-2022年)も当然、離米従中に反日カードを活用しました。親米路線であるがゆえに反日カードを使えなかったのは李明博(イ・ミョンバク)政権(2008-2013年)と尹錫悦政権(2022-2025年)だけです。

 ただ、李明博大統領は任期末にレームダックに陥った時に、竹島に上陸して人気回復に努めたことはありました。

 日韓関係を悪化させることで米国との同盟の義務から逃げまくる韓国に関しては『韓国消滅』の第4章で詳述しています。この章の見出しを「日本との関係を悪化させたい」としたのもそのためです。

「日本と仲良くしたい」
――李在明氏は「日本と仲良くしたい」と繰り返し表明しています。

鈴置:それこそが見え透いた騙しのテクニックです。5月20日にもオンライン懇談会で以下のように述べています。中央日報の「〈韓国大統領選〉李在明候補『日本に敵対的というのは先入観…仲良くしたい』」(5月21日、日本語版)から引用します。

・私が日本に敵対的だという先入観がある。民間交流で日本と経済的に協力するのがどれほど重要なことか。ところが、それを今誤解している。私は本当に日本と仲良くしたい。

 ところが次のようにも語っています。

・日本の政治と日本の国民は違う。

 米国は韓国の真意と手口を見抜いています。「日本との関係が悪いから安保協力ができないなんて嘘だろ。本当は中国と敵対するのが怖いんだろ」と韓国に対し言ってくるのは確実です。

 そこで、今から「自分が反日なんて誤解だ。日本人は大好きだ。ただ、日本政府が強情で謝罪しないので困っている」と強調しておく必要があるのです。

 日韓関係を良好に保つことで中国包囲網を完成したい米国。その目の前で「日韓どちらが関係を悪化させているのか」を決めるゲームが始まったのです。石破首相が気が付いているかは分かりませんが。


日韓初、陸軍種の合同訓練

 興味深いニュースがありました。5月13日、陸上自衛隊が韓国の海兵隊と初めて合同訓練を行うと発表しました。6月上旬からフィリピンで実施する日米比韓の災害救難訓練が舞台です。

 日韓としては初の陸軍種の合同訓練で、日本とフィリピンのボートに韓国兵も乗る予定でした。災害訓練の形をとりますが、本当の狙いは中国の侵攻に備えた離島奪還訓練と思われます。

 ところが韓国海兵隊は同日、直ちに「米国・フィリピン軍とは合同訓練を進めるが、日本の陸上自衛隊とは合同訓練をしない」「韓国海兵隊が自衛隊と同じボートに同乗することはない」と声明を出したのです。

 次期大統領の可能性が最も高い李在明候補は「韓米日の安保協力は重要」と口では言っている。しかし本音は全く逆なことは、韓国人なら誰もが知っている。

 韓国海兵隊は次期大統領に叱られないために「日本とはたまたま訓練場所が同じだった」との苦しい言い訳を考えついたと思われます。


米国が怒って出て行けばしめたもの

――いくら「日本のせい」と言い張っても、韓国が同盟の義務を放擲したら米国は怒りだしませんか。

鈴置:「李在明政権」はそれも織り込み済みでしょう。

――米国は怒って在韓米軍を撤収するかもしれません。

鈴置:それこそ左派の願っていることです。より本格的な米中等距離外交が実現するわけです。米軍が出て行くと言うなら、親米派の保守も引きとめようがない。そもそも保守だって日本に謝罪させたいのは同じなのです。

 北朝鮮との和解も進む、と左派は考えます。米国が朝鮮半島に軍隊を置くことで民族を分裂させている、というのが左派の世界観ですから。

「李在明の韓国」が北東アジアの構造を大きく変えるのは間違いありません。


李在明の韓国

次の韓国大統領も「日本のせいで中国包囲網には加われない」と責任転嫁する――すでに張られた“伏線” 鈴置高史氏が読む


 次期大統領の最有力候補、李在明(イ・ジェミョン)氏が「反米従中」の本性を現し始めた。もちろん米国は怒る。そこで「米国側に立てないのは歴史問題を反省しない日本のせいだ」と言い訳する作戦に出ると韓国観察者の鈴置高史氏は見る。
米国の敵に内通する李在明
鈴置:李在明候補の外交に関する発言はカメレオンのように変化します。もともと韓国では極め付きの反米従中派と見なされていました。日本からの解放の立役者と見なされてきた米軍を「占領軍」と呼び、物議を醸したことがあります。

 最大野党「共に民主党」の代表というのに、駐韓中国大使に呼びつけられて中国大使館まで出向き「外交儀礼に反する卑屈な姿勢」と韓国の保守系紙から厳しく批判されたこともあります。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する1回目の弾劾訴追案でも、「共に民主党」は理由に「大統領が北朝鮮、中国、ロシアに敵対的であり、北東アジアで韓国を孤立させ、あまりに親日的である」ことを挙げました。

 これを見た米国は李在明氏と「共に民主党」に対する疑念を深めました。例えば、米下院外交委員会で東アジア・太平洋小委員会の委員長を務めるY・キム(Young Kim)議員(共和党)は「共に民主党」こそは米国の敵への内通者と主張したのです。



・韓国では大統領弾劾を主導する党派を含め、いくつかの党派が米韓同盟と米韓日の三角協力を壊そうとしてきた。
・中国共産党や北朝鮮政権といった我々の敵は、我が同盟の弱みにつけ込んで不安定な状況を利用する方法を模索している。韓国における政治的不安定と反米プロパガンダの高まりは我々の敵に青信号を灯す。



慌てて「親米路線」に転換のフリ

 韓国人の米国に対する感情は複雑なものがありますが、大統領選挙では米韓同盟を否認する候補は勝てません。北朝鮮と対峙する以上、米国との同盟は必要不可欠と考える人が多いのです。どの世論調査を見ても国民の90%前後が同盟の存続を望んでいます。

 米国の厳しい反応はY・キム議員の寄稿以前から高まっていましたが、李在明氏はそれを見て慌てて親米路線に転じました。2024年12月23日には駐韓米国大使と会い「韓米日の協力関係は続く」と述べ、尹錫悦政権が力を入れてきた3カ国の安保協力体制を引き継ぐと約束しました。

 同月26日には駐韓日本大使にも会って「私は日本に[対する]愛情が深い」と語りました。少し前まで「日本は敵性国家」と決め付けていたのと比べ、180度の変わりようです。

 2025年1月17日には「自由・民主陣営の一員としての役割・責任を一層強化する」「韓米同盟はさらに強化されるだろう」と、「共に民主党」の会議で述べました。

 保守系紙、朝鮮日報は「『中国にシェシェ』と言っていたのに今度は『米国に感謝』…李在明の最大のリスクは外交」(1月20日、韓国語版)で、身代わりの速さを痛烈に皮肉りました。



台湾有事には中立


 もっとも、「にわか親米」の寿命は短かった。大統領選挙の世論調査で李在明候補が圧倒的に有利との結果が出ると、米中等距離外交を再び打ち出して「先祖返り」したのです。

 5月13日、李在明候補は大邱(テグ)での遊説で「中国にもシェシェ(謝謝=ありがとう)、台湾にもシェシェ。台湾と中国が喧嘩しようがどうしようが、我々と何の関係があるのか」と語りました。

「中台双方にシェシェ」は2024年3月以来の李在明候補のキャッチフレーズで、中国の台湾侵攻の際、米国が台湾支援に乗り出しても韓国は協力すべきではない、との主張です。台湾防衛に在韓米軍の兵力を投入させないとの含意もあります。

 当然、保守から「米国との同盟を壊す」と非難されてきました。それもあって選挙戦では封印してきましたが、ついにこの日「シェシェ発言」を再開したうえ「[私は]間違ったことを言ったか?」と開き直ったのです。

 朝鮮日報は「シェシェ発言」的な姿勢が米国との同盟に亀裂をもたらすと警告しました。ワシントン特派員の金隠仲(キム・ウンジュン)記者が米国の朝鮮半島専門家8人に緊急インタビューしたほどです。

「李の『シェシェ発言』に米専門家たち『朝鮮半島と台湾は別々でない』」(5月15日、韓国語版)は「台湾防衛に協力しないというなら米韓同盟の存続に疑問符が付くぞ」といった米識者の声を紹介しています。

 しかし、当選に自信を深めた李在明候補は馬耳東風。米国からの警告を完全に無視しました。5月18日には有力候補のテレビ討論会で「米国や日本との安全保障面での協力は必要」としつつも「台湾有事に我々があまり深く関与しすぎる必要はない。距離を保たなくてはいけない」と改めて「有事の中立」を主張したのです。

絶対に日本の責任を問う
――「李在明の韓国」は米中間で板挟みになること必至です。どうするつもりでしょうか。

鈴置:奥の手があります。米国の前では「同盟強化」の旗を掲げて見せる。もし、具体的な軍事協力を求められたら「韓米軍事協力は日本との軍事協力につながる。だが、歴史問題で謝罪しない日本との協力は国民感情が許さない。したがって米国とも協力できない」との屁理屈をこねるつもりでしょう。

 すでに伏線を張っています。李在明候補は5月9日、日本に対する討論会に以下のような祝辞を寄せました。聯合ニュースの「李在明氏『日本は重要なパートナー』 韓国大統領の有力候補」(5月9日、日本語版)から引用します。

・日本は韓国の4番目の貿易相手国であり、両国の安全保障協力は北東アジアの平和と韓国の繁栄をけん引してきた韓米日の安全保障同盟の基盤でもある。
・今、韓国は地政学的な秩序の大転換期に立っている。緻密かつ繊細な外交解決策で両国の友好関係を強化し、国益を得なければならない。

――日本との安保協力を肯定的に評価しましたね。

鈴置:米国を意識してそう言っているだけです。祝辞には続きがあるのです。

・両国の前には依然として過去の歴史、福島の汚染水放出など複合的な課題が残っている。特に歴史問題は未来志向的な関係構築のため必ず解決しなければならない課題だ。
・対話と協力を通じた相互尊重と信頼、責任ある姿勢が伴ってこそ韓日関係はさらに成熟することができる。


植民地支配の不法性を認めさせる
――なるほど! 「歴史問題は必ず解決すべき問題」と来ましたね。

鈴置:「歴史問題では一歩も引かない」との意思表明です。つまりは日本との安保協力の拒否、引いては米国との軍事協力の暗黙裡の否定です。

 李在明陣営の外交ブレーンである高麗大学の任爀伯(イム・ヒョクベク)名誉教授も日本経済新聞のインタビューに答え、以下のように語っています。

「李在明氏の外交、米韓同盟軸の『実用主義』 陣営ブレーンに聞く」(5月19日)から引用します。

・過去の問題は非常に難しい。共に民主党は歴史問題の解決を重要なアジェンダと考えている。そのため日本が真摯な態度をとらないと強硬な立場を取る議員が出てくる。未来志向的な協力関係を構築することが難しくなる。

 日本が言うことを聞かないと首脳会談も開いてやらないぞ。それでいいのか、との脅しでしょう。韓国は今、国を挙げて植民地支配は不法だったと日本に認めさせようとしています。

 日本企業に対し、いわゆる元「徴用工」に賠償金を払わせたり、日本政府には元「従軍慰安婦」に対し賠償させる形で、搦め手から「不法性」を認めさせる手口です。

 日本は岸田文雄政権でさえ、これを認めなかった。韓国は元「徴用工」や元「慰安婦」を利用して日本との対立を表面化させ、米国と軍事協力できない、と言い張る可能性が高い。

舐められた謝罪派=イシバ
――脅せば日本は言うことを聞くとの目算があるのですか。

鈴置:目算というほどのものはなく、とりあえず脅してみよう、くらいの感じかと思います。石破茂首相は東亜日報に対し「韓国がいいと言うまで日本は謝るべきだ」と繰り返し語っています。

「『韓国が納得するまで謝る』イシバは“第2のハトヤマ政権”だ…尹錫悦が期待する根拠」をご覧ください。「弱腰の石破」が政権に就いたチャンスを韓国が見逃すはずがありません。任爀伯教授も日経に次のように述べています。

・故安倍晋三元首相が韓国に強硬だったので、石破首相のイメージはそれほど悪くはない。石破首相はそれ以前の首相とは少し異なり、実用主義的に向き合ってくるだろうと我々は考えている。

――石破首相も舐められたものですね。

鈴置:自業自得です。安倍政権を批判するために、朝日新聞などのリベラルに受けのいい「謝罪派」を演じて見せたツケが今、回っているのです。

 それに安倍首相はトランプ(Donald Trump)大統領と関係が極めて良好だったので、韓国は日本に対し「米国のテコ」を使えなかった。一方、石破首相はトランプ大統領から露骨に小物扱いされている。

 初の首脳会談でも冒頭の28分間、日本の事務方がメモを入れて阻止するまでトランプ大統領は「頭撮り」を続け、石破首相を無視して記者団と会話を続けたのです。「小物」を扱ういつものやり方です。文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対しても30分間の会談予定というのに28分間、頭撮りしたことがあります。

 韓国人は他人の弱点を見抜くのに長けていて、必ず利用してきます。今、米国を後ろ盾に脅せば、日本は言うことを聞かざるを得ないとも判断したのでしょう。日本人とすれば、こんな時に総裁=首相に石破氏を選んだ自民党を恨むしかありません。


元祖は盧武鉉
――李在明外交は隅に置けませんね。

鈴置:「謝罪しない日本」を利用して中国包囲網に加わらないのは李在明氏の発明ではありません。韓国の常套手段です。日本人が日韓関係を「日韓」だけから見て「米中」の従属変数として考えないので、見落としているだけなのです。

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権(2003-2008年)も就任当初は日本との関係改善に積極的でした。しかし、米国が在韓米軍を中国牽制に活用しようとしたため突然、日本との関係を悪化させました。そして中国包囲網に加わらない理由に仕立て上げて行ったのです。 

 保守ながら「離米従中」路線をとった朴槿恵(パク・クネ)政権(2013-2017年)も、事あるごとに日本を侮蔑して見せ、日韓関係の悪化に務めました。

 もっとも当時、米国の副大統領だったバイデン(Joe Biden)氏は「本当は中国と敵対する根性がないだけ」と朴槿恵大統領の反日の真意をすっかり見透かしていましたが。

 従北従中の左派、文在寅政権(2017-2022年)も当然、離米従中に反日カードを活用しました。親米路線であるがゆえに反日カードを使えなかったのは李明博(イ・ミョンバク)政権(2008-2013年)と尹錫悦政権(2022-2025年)だけです。

 ただ、李明博大統領は任期末にレームダックに陥った時に、竹島に上陸して人気回復に努めたことはありました。

 日韓関係を悪化させることで米国との同盟の義務から逃げまくる韓国に関しては『韓国消滅』の第4章で詳述しています。この章の見出しを「日本との関係を悪化させたい」としたのもそのためです。

「日本と仲良くしたい」
――李在明氏は「日本と仲良くしたい」と繰り返し表明しています。

鈴置:それこそが見え透いた騙しのテクニックです。5月20日にもオンライン懇談会で以下のように述べています。中央日報の「〈韓国大統領選〉李在明候補『日本に敵対的というのは先入観…仲良くしたい』」(5月21日、日本語版)から引用します。

・私が日本に敵対的だという先入観がある。民間交流で日本と経済的に協力するのがどれほど重要なことか。ところが、それを今誤解している。私は本当に日本と仲良くしたい。

 ところが次のようにも語っています。

・日本の政治と日本の国民は違う。

 米国は韓国の真意と手口を見抜いています。「日本との関係が悪いから安保協力ができないなんて嘘だろ。本当は中国と敵対するのが怖いんだろ」と韓国に対し言ってくるのは確実です。

 そこで、今から「自分が反日なんて誤解だ。日本人は大好きだ。ただ、日本政府が強情で謝罪しないので困っている」と強調しておく必要があるのです。

 日韓関係を良好に保つことで中国包囲網を完成したい米国。その目の前で「日韓どちらが関係を悪化させているのか」を決めるゲームが始まったのです。石破首相が気が付いているかは分かりませんが。


日韓初、陸軍種の合同訓練

 興味深いニュースがありました。5月13日、陸上自衛隊が韓国の海兵隊と初めて合同訓練を行うと発表しました。6月上旬からフィリピンで実施する日米比韓の災害救難訓練が舞台です。

 日韓としては初の陸軍種の合同訓練で、日本とフィリピンのボートに韓国兵も乗る予定でした。災害訓練の形をとりますが、本当の狙いは中国の侵攻に備えた離島奪還訓練と思われます。

 ところが韓国海兵隊は同日、直ちに「米国・フィリピン軍とは合同訓練を進めるが、日本の陸上自衛隊とは合同訓練をしない」「韓国海兵隊が自衛隊と同じボートに同乗することはない」と声明を出したのです。

 次期大統領の可能性が最も高い李在明候補は「韓米日の安保協力は重要」と口では言っている。しかし本音は全く逆なことは、韓国人なら誰もが知っている。

 韓国海兵隊は次期大統領に叱られないために「日本とはたまたま訓練場所が同じだった」との苦しい言い訳を考えついたと思われます。


米国が怒って出て行けばしめたもの

――いくら「日本のせい」と言い張っても、韓国が同盟の義務を放擲したら米国は怒りだしませんか。

鈴置:「李在明政権」はそれも織り込み済みでしょう。

――米国は怒って在韓米軍を撤収するかもしれません。

鈴置:それこそ左派の願っていることです。より本格的な米中等距離外交が実現するわけです。米軍が出て行くと言うなら、親米派の保守も引きとめようがない。そもそも保守だって日本に謝罪させたいのは同じなのです。

 北朝鮮との和解も進む、と左派は考えます。米国が朝鮮半島に軍隊を置くことで民族を分裂させている、というのが左派の世界観ですから。

「李在明の韓国」が北東アジアの構造を大きく変えるのは間違いありません。


TOTAL: 2712139

番号 タイトル ライター 参照 推薦
3/31(水) パッチ内容案内させていただ… 관리자 2023-03-24 266920 18
2712139 日本はアメリカの家畜 (2) Prometheus 21:31 9 0
2712138 WWW avenger 21:29 15 0
2712137 西瓜腹になった模型屋は一人で食べ....... (1) ben2 21:24 23 0
2712136 日本の誇りヤキトリは和食ではないkk....... (1) fighterakb 21:20 27 0
2712135 韓国刺身をおいしく食べるトム・ク....... fighterakb 21:17 55 0
2712134 東京中心部こんな生態系不可能だか? cris1717 21:17 22 0
2712133 中国 1線 都市ではエンジンバイク運....... cris1717 21:10 27 0
2712132 日本農林長官 "私は包む多くて" sw49f 21:06 41 0
2712131 カナダG7に韓国大統領ならよばれない....... (1) 夢夢夢 21:02 52 0
2712130 ソンフングミン脅迫 40代男性 20代女....... (7) fighterakb 20:51 54 0
2712129 米国人が本物の焼き鳥に感動 JAPAV57 20:50 52 0
2712128 RE: 日本の誇りヤキトリの紀元 fighterakb 21:04 48 0
2712127 韓国人が本物の餃子に衝撃! (2) JAPAV57 20:47 68 0
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