（ブルームバーグ）：

投資の世界で繰り返し期待を裏切られてきた言葉の一つが「Japan is back」だ。そう、日本が戻ってきたとのうたい文句だ。

この表現は2013年、安倍晋三首相（当時）が「アベノミクス」を掲げ、国際社会に向けて日本の復活を高らかに宣言した際に使われた。

　　その10年前の小泉純一郎政権時には、米誌ニューズウィークが同じフレーズを見出しに用いた。その時点ですでに手あかにまみれた表現だったため、誌面では「No, Really!（本当に！）」という言葉を付け加えていた。

　　しかし、いずれも期待は短命に終わった。日本経済の問題を一夜にして解決する妙薬は存在せず、熱気は急速に冷めた。

　　そのため、新型コロナウイルスのパンデミック（世界的大流行）後に海外マネーが東京市場へ戻ってきても、これを決定的な日本復活と断言することに慎重な見方が多いのも当然だろう。

　　確かに三菱商事や三井物産といった大手総合商社に数十億ドル規模の投資を行ったウォーレン・バフェット氏のように日本に強く期待する投資家もいる。

　　だが投資家が理解すべきなのは、復活したかどうかにかかわらず、日本はすでに変わったということだ。

　　2003年や13年に一時的な関心の波に乗ったものの、その後は日本市場から離れた投資家が今、再び戻ってきた時に目にするのは全く異なる日本だ。「失われた10年」を繰り返した日本の姿は、もはやない。

　　1990年代初頭に始まった日本経済の失われた時代は、低成長や慢性的なデフレ、エリート層の機能不全が特徴だった。以前の栄光を取り戻そうとした政治リーダーらは、結果的に日本を過去に縛り付けるだけに終わった。

　　しかし今、長らく停滞してきた株価や不動産価格はついに30年ぶりに高値を更新した。かつては保護主義的だった東京が、今や世界で最も魅力的な取引の舞台になりつつある。投資先を中国から切り替えようとする投資家にとって、日本は一段と魅力的に映り始めている。　

   　失われた時代は約30年に及んだが、それが終わったことを象徴する出来事が今年起こった。SBI新生銀行が7月、前身の日本長期信用銀行に注入された公的資金を完済したのだ。長銀は98年の金融危機時に破綻し、外資に売却されていた。

　　バブル崩壊後に政府に救済された銀行による最後の公的資金返済となり、これにより資産価値の崩壊に伴って金融機関が次々に破綻した一連の危機の後始末が終わった。

デフレ克服

　　国内経済の大きな転換という追い風を受け、多くの邦銀は今、過去最高益を計上している。日本銀行は大規模な金融緩和策を縮小し、政策の正常化を緩やかに進めている。

　　金利は依然として低水準にとどまるものの、日銀は主要政策金利を0.5%と、約20年ぶりの高水準にまで引き上げている。

　　長年にわたるデフレは克服された。パンデミック後の世界的なインフレ急加速という外部要因が後押しした面はあるが、初の物価下落に転じてから約30年を経て、この4年間は毎月、物価上昇が続いている。

    企業は長らく実施できなかった値上げに踏み切り、深刻な人手不足もあり賃金も上昇。インフレ率に追い付いていないものの、賃金の伸びはバブル期以来の勢いだ。

　　今年の最低賃金は全都道府県で時給1000円を超える見通しで、コスト削減を万能薬と見なす発想は後退しつつある。

　　ただし、課題が解決されたわけではない。物価上昇は国民にとって最大の不満材料であり、政治の不安定が再び頭をもたげつつある。

　　長く与党の中心であり続けてきた自民党は選挙で相次ぎ敗北し、内紛が表面化。党総裁の石破茂首相は辞任を9月に表明した。総裁選は10月4日実施される。次期首相候補の一人で安倍氏の流れをくむ高市早苗前経済安全保障相のスローガンは「Japan is back」だ。  

日本は戻ってきたのか。運命を試すような言葉は避けた方がいいだろう。だが長らく無視されてきたこの国が今、世界に存在感を示していることは確かだ。