日豪が戦略的防衛調整枠組みを設けた意義

2025年12月7日、小泉進次郎防衛大臣とリチャード・マールズ豪州副首相兼国防大臣は、日豪防衛関係および両国の共通利益に影響する安全保障環境について協議した。

日本とオーストラリアが設置した「戦略的防衛調整枠組み（FSDC）」では、防衛政策や共同活動と並んで「インテリジェンス」が正式な協議項目として明記された。これは両国が共有する安全保障環境の変化を踏まえ、平時から緊急時まで情報を迅速に交換できる仕組みを整備した点で重要である。

日豪でインテリジェンス協力が不可欠となる理由

現代のインテリジェンスは、軍事情報にとどまらず、サイバー攻撃の兆候、宇宙空間の物体情報、重要インフラに関する技術情報、偽情報・世論操作の動きなど、多様な領域を含む。特にサイバー分野では攻撃の兆候が短時間で国境を越えるため、単独での把握には限界がある。

ここで重要なのは、日本とオーストラリアが地理的に異なる視野を持ちながら、インド太平洋という同じ戦略空間をカバーしている点である。 日本は東アジアと北太平洋、豪州は南太平洋とインド洋を視野に持ち、双方の監視領域は重なり合いながら互いを補完する。サイバー領域でも同様で、両国は共通の攻撃主体（国家・非国家双方）から狙われやすく、攻撃の兆候は双方のネットワークに散発的に現れる。そのため、双方の情報を結ぶことで全体像が初めて見えるケースが少なくない。

加えて、オーストラリアは米英加NZと構成するファイブアイズの一員であり、日本は同枠組みと協力を深めてきた。日豪協力の強化は、結果として日本のインテリジェンス接続性を高める“ゲートウェイ”の役割を持ち、地域の透明性と抑止力を高める効果がある。

こうした背景から、「戦略的防衛調整枠組み（FSDC）」におけるインテリジェンス協力は、日豪が共通の状況認識を形成し、透明性と抑止力を高める要となる。

情報優位が生む“静かな抑止”

日豪が共に行う共同訓練や演習の実効性を高めるためにも、インテリジェンスの共通理解は欠かせない。「戦略的防衛調整枠組み（FSDC）」では防衛政策からIAMD、宇宙、サイバーに至るまで一体的に議論できるため、情報の共有と分析が他分野の協力を支える基盤となる。

インド太平洋では、国家がSNSを通じた影響工作や情報操作を仕掛ける事例が増えている。情報が高速に拡散する環境では、攻撃の兆候を早期に察知し、虚偽情報を識別する能力が安全保障の重要要素となる。日豪がインテリジェンス協力を制度化することは、こうした「情報空間の脅威」に共同で対処する基盤を築くものである。

さらに、衛星データ、通信情報、サイバー上の兆候分析など、各国が持つ技術的リソースは単独よりも相互補完によって強化される。双方の強みを結合することで、域内の状況認識が飛躍的に向上し、潜在的な攻撃者に対して「見られている」「隠れられない」という抑止効果が生じる。

インテリジェンス協力の強化は、大規模な軍事力の増強に依存せず、情報優位によって地域の安定を維持するための“静かな抑止”である。「戦略的防衛調整枠組み（FSDC）」はそのための制度的枠組みを整えた点で、日豪関係における重要な柱となる。