横浜地裁の判決で無罪が確定した護衛艦あたごの元水雷長と元航海長の二名。
自衛隊の責任を認めた海難審判の結果と違うといった報道がありますが、果たしてそれは本当なのでしょうか?
ここでは改めて海難審判の結果を確認すると共に、地裁の結果とも対比させて検証してみたいと思います。
以下は海難審判の判決文です。
URL元: http://www.mlit.go.jp/jmat/press/h20/210122yh.htm
1 事 件 名 護衛艦あたご漁船清徳(せいとく)丸衝突事件
2 裁決言渡期日 平成21年1月22日(木)午後2時
3 審 判 所 横浜地方海難審判所(審判長審判官 織 戸 孝 治(おりと たかはる))
4 理 事 官 横浜地方海難審判所 稲 木 秀 邦(いなぎ ひでくに)
5 指定海難関係人 A (あたご艦長)
指定海難関係人 B (あたご水雷長)
指定海難関係人 C (あたご航海長)
指定海難関係人 D (あたご船務長)
指定海難関係人 海上自衛隊第3護衛隊群第3護衛隊(旧第63護衛隊)
代表者 第3護衛隊司令 E
6 補 佐 人 a
(A,B,C,D及び海上自衛隊第3護衛隊群第3護衛隊(旧第63護衛隊)選任)
7 審理の経過
本件は,平成20年6月27日横浜地方海難審判理事所から横浜地方海難審判庁に審判開始の申立てが行われ,同年9月4日,同月11日,同月12日,同月17日及び同月25日に審理し,横浜地方海難審判所に引き継がれて,同10月21日に結審し,本日の裁決言渡となった。
なお,本裁決は,国土交通省設置法等の一部を改正する法律(平成20年法律第26号)附則第4条の規定に基づき,同法第3条の規定による改正前の海難審判法(以下「旧法」という。)の規定により行ったものである。
8 事件発生の年月日時刻及び場所
平成20年2月19日04時07分少し前
千葉県野島埼南方沖合
(北緯34度31.5分 東経139度48.6分)
9 事件の概要
あたごは,京都府舞鶴港を基地とする第3護衛隊群第3護衛隊に所属する護衛艦で,艦長ほか280人が乗艦して,アメリカ合衆国ハワイ州で武器体系に係る装備認定試験を終了し,平成20年2月6日10時02分(現地時間)パールハーバーを発し,各科訓練等を行いながら,神奈川県横須賀港に向かって航行中,また,清徳丸は,船長ほか1人が乗り組み,まぐろはえ縄漁の目的で,2月19日00時55分法定灯火を表示して千葉県勝浦東部漁港川津地区を発し,東京都三宅島北方海域に向け航行中,前示の日時及び地点において,あたごの艦首部と清徳丸の左舷ほぼ中央部が衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,視界は良好であった。
衝突の結果,あたごは,艦首部に擦過傷を生じ,清徳丸は,船体が二つに分断され,船長及び甲板員が行方不明となり,のちいずれも死亡と認定された。
10 裁決の概要
(1) 原因
本件衝突は,夜間,千葉県野島埼南方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,北上するあたごが,動静監視不十分で,前路を左方に横切る清徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが,西行する清徳丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
第3護衛隊が,あたごの艦橋とCIC間の連絡・報告体制並びに艦橋及びCICにおける見張り体制を十分に構築していなかったことは,本件発生の原因となる。
(2) 勧告
B指定海難関係人が,夜間,艦橋当直に就いて千葉県野島埼南方沖合を北上する際,前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する清徳丸に対し,動静監視を十分に行わず,同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対して勧告しないが,艦橋当直に就いた際,他船に対し,自ら又は見張り員やCICを活用してその動静を十分に監視しなければならない。
指定海難関係人第3護衛隊が,あたごの乗組員の教育訓練にあたり,艦橋とCIC間の連絡・報告体制並びに艦橋及びCICにおける見張り体制を十分に構築していなかったことは,本件発生の原因となる。
第3護衛隊に対しては,旧法第4条第3項の規定により勧告する。
A指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。
C指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。
D指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。
・参考
海難審判法第四条の三項(旧法 2010年改正される以前のもの)
海難審判所は、必要と認めるときは、前項の者以外の者で海難の原因に関係のあるものに対し勧告をする旨の裁決をすることができる
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法律文章は非常に読みにくいと思うので海難審判の結果をまとめると…
事故の原因は3つあるとしています。
1つ目はあたごの監視が不十分だったこと。
2つ目は漁船が警告せず協力動作を行わなかったこと。
3つ目は護衛艦隊が十分な見張り体勢を構築していなかったこと。
マスコミでは自衛隊が事故の主因であって、全面的に護衛艦が悪いという書き方で煽っていましたが、海難審判では双方に原因があるとしています。
これは海難審判では事故の再発を防ぐという主目的から、被害者側であっても厳しい判断を行うことが多いためです。
仮にあたごがぶつかられた側だったとしても、海難審判では警戒と警告を怠ったとして自衛隊側の責任を言及したと思われます。
個々人の責任では、あたごの艦長、水雷長、航海長、船務長の名前が挙がっていますが、海難審判でも全員「勧告なし」です。水雷長に十分な見張りを求めたのみ。
法律に基づいて勧告したのは組織としての艦隊で、十分な監視体制を構築するように促しています。
以上を踏まえると、海難審判でも事故に係わった自衛官個々人への勧告は行っていないため、地裁において2名に無罪判決が出たことと対比させても大きく矛盾する内容ではないと思います。
問題なのはこの内容をまるで「自衛官だけが悪い。自衛官は有罪になっても当然だ」という風に斜め読みして煽ったマスコミで、その結果、無罪判決が出た後で「海難審判と地裁で矛盾している」という間違った認識が生まれたのだと思います。
海難審判と地裁では、「事故の再発防止」と「個人の責任と賠償」と追求する立場が違うため、その言及内容に多少の相違が発生しますが、その内容は決して矛盾を持ったものではなく、本件に関しては日本の司法は的確に機能していると評して間違いないと思います。
ご指摘ありましたら、どうぞ。
〆
