置いてきぼりの旅である。世界の列車は急行や特急全盛。各駅停車という鈍行列車はその運行も減る一方だ。残り少ない鈍行に乗っても、待ち合わせばかり。次々に追い抜く速い列車を、指をくわえて眺めるしかない。しかし各駅停車の旅には、列車旅の楽しさが詰まっている。ゆっくりと流れる風景。素朴な物売りや暇そうな駅員の笑顔。そんな世界を味わいたくて、世界の鈍行列車に乗る旅に出ることにした。
1回目はお隣の韓国。しばらく前まで釜山とソウルを12時間かけて走る長距離鈍行列車があったが、すでに廃止。短い鈍行列車を乗り継いでいくしか方法がなくなってしまった。ネットで検索した時刻表を見ると、鈍行は朝と夕方にしか残されていない。まさに不遇の身。釜山に午後着いた僕らは、鈍行列車めざして釜山駅に向かった。

釜山駅。めざすは18時40分発の東大邱行きの鈍行列車。1342が列車番号である。しかし発券窓口には人の列。ふと見ると、自動券売機がある。英語を選択し、乗車駅と降車駅を選ぶと、「おーッ」。1342番の列車が表示された。紙幣を投入するとチケットが出てきた。これなら韓国語が話せなくてもなんとかなる。

改札もない。ホームに下りると、すでに東大邱行きの鈍行列車は入線していた。ムグンファと呼ばれる列車の種類だった。駅員に切符を見せると、やはりこの列車だった。東大邱まで2時間弱の鈍行列車の旅。運賃は7200ウォン。590円。東京駅から立川駅まで行くより安い。

窓が開く鈍行列車への期待は裏切られた。日本の特急列車を思わせる車内。リクライニングのシート。暖房もしっかり効いていた。それに全席が座席指定制。満席になると立ち席切符が売られるのだという。日本の各駅停車の車両より立派な車内に少し戸惑ってしまった。

しかし鈍行列車だった。定刻に釜山駅を出発したが、14分後に着いた次の沙上駅でしばらく停車。ソウル行きの高速列車KTXにいきなり追い越される。ここで2分遅れ。続いて50分ほどで着いた三浪津駅でもKTXの待ち合わせで5分遅れ。1時間に2本も……。追い越されてばかりだ。

列車には売店と軽食を食べることができるカウンターのある車両が連結されていた。そこにはテレビゲームや個室カラオケ、個室マッサージまであった。マッサージは機械式で10分1000ウォン。鈍行に乗ってカラオケやマッサージ。韓国人にはついていけない。

東大邱に7分遅れで到着。駅を出たが、あまりの都会ぶりにものおじし、再び鈍行列車へ。1358という列車で金泉までの切符を買った。途中によさそうな街にとまったら下車するつもりだった。そして倭館。ここにはきっと宿がある。そんな勘を頼りに飛び降りた。はたして駅前の安宿。鈍行列車の旅だなぁ。

倭館は鈍行列車旅にはお似合いの小さないい町だった。店は駅周辺に集まっている。さて、なにを食べようか。一軒の店に入ったが、英語も日本語も通じない。でも、なんとかなるものだ。韓国の田舎町の人々は温かい。後になってここが日本時代の町の名であることを知った。

鈍行列車は朝と夕。翌朝は倭館を5時56分に出る1304という列車に乗る。しんしんと冷え込む早朝。駅も閑散としていた。自動券売機はあったが、クレジットカード専用でなぜか読み取ってくれない。やっと起きてきた駅員が天安までの切符を売ってくれた。

温かい車内。快適なシート。つい、うとうと……。目覚めると、朝もやに包まれた韓国の田園風景が広がっていた。どこかほっとする。そのなかを、列車は規則的なディーゼル音を残して北上する。列車に体がなじんでくるのがわかる。乗客の大半は眠りほうけていた。

たまたま日曜日だった。朝、7時台。停車する駅からは、体に冷気をまとった乗客が乗り込んでくる。指定された席に座っていれば、車内検札もない。ときどきやってくる車掌や駅員は礼儀正しい。鉄道員としての威厳が伝わってくる。

9時前に天安に到着した。駅前の地下商店街の一画。元気なおばさんに惹(ひ)かれて、うどんとキンパプ(写真左)の朝食。うどん2500ウォン。約200円の安さに、ついうれしくなってしまう。冷えた体に、温かいうどんがありがたい。ちゃんとキムチやたくあんも付く。

1730番の列車に乗って世界遺産の水原華城がある水原をめざす。これまでのムグンファ号と違う新型電車のヌリロ号だった。各駅停車には変わりはないが。乗客の大半は休日にソウルに向かう人々だった。どことなく都会に近づいている感覚だった。

水原華城にはちょっと興ざめ。ほとんどが復元した建物だった。だから……というわけではないが、ここが発祥といわれる骨付きカルビの昼食。1人前が 26000ウォンという観光地値段にちょっと身を引く。鈍行列車に乗っていると、街の物価が高く感じてしまう。

午後4時台の列車でソウルに向かう。この時間帯に各駅停車はない。というか、水原にはソウル地下鉄が乗り入れていて、各駅にこだわるなら地下鉄という世界になってしまうのだ。ちょっと悩んで韓国鉄道。最後はやはりムグンファ号に乗りたかった。

午後5時すぎにソウル駅に到着した。その立派さと周辺のビル群に圧倒される。鈍行列車に揺られてきた身には、すべてがまぶしく映ってしまう。釜山から丸1 日かかってソウルに着くのんびり旅。倭館のひなびた町並みが懐かしかった。

ソウルの明洞。こんな若者たちが集まっていた。明るいネオンに最新のファッション。やはり都会だった。2日前の午後までいた東京を思い出す。鈍行列車の旅は、実際に時間を倍ほどにのばしてくれたようだった。
※写真は2010年1月30日~1月31日の取材で撮影したものです
※各国の現在の情勢については、外務省の海外安全ホームページなどでご確認ください

http://doraku.asahi.com/earth/clickdeep/100330.html
================================
( ´・ω・) むぅ。
次の週末は、普通列車で旅に出てみようかな。
(*´-ω-)
~ 以上 ~

