江戸庶民は日々の食事でどんなおかずを好んだか。その番付が残っている。
作られた日付ははっきりとしないが、文化・文政以後らしい。
その最上位の大関に挙げられたのは東の「精進方」が「八はいどうふ」、
西の「魚類方」は「めざしいわし」だった。
さらに以下関脇と小結は、東が昆布と油揚げの煮物、きんぴらごぼう、西が貝のむき身と切り干し大根の煮物、芝エビの炒(い)り物だ。きょうの夕食に出てきてもおかしくないおかずばかりである(石川英輔著「大江戸番付事情」講談社文庫)
ただ大関の八杯豆腐は今では見られない。
江戸時代の料理本「豆腐百珍」にはそのレシピがあって、だし汁6、酒1、しょうゆ1の八杯汁が煮えたところに絹ごし豆腐を入れる。ころ合いを見て器に取り、おろし大根をのせて食べるそうだ
豆腐料理100を集めた天明年間のベストセラー「豆腐百珍」は、料理を「尋常品」「通品」「佳品」「奇品」「妙品」「絶品」の6段階に分けている。八杯豆腐はうち「妙品」だ。ならば当然気になるのは「絶品」にランクされた料理だ
それを見れば、今ではあまり見ない豆腐料理の中に「湯やっこ」--湯豆腐があるのにほっとする。この書では葛湯(くずゆ)を使っているが、実際作ってみると「葛湯は豆腐の舌触りをさらに良くする。冬の木枯らしの吹く夜には特にいい」そうだ(福田浩ほか著「豆腐百珍」新潮社刊)
湯豆腐や鍋物の豆腐がうれしいこの季節、心まで温まる味を残してくれたご先祖の舌には感謝したい。ただ江戸の豆腐料理や総菜から今日のレストランガイドまで、味をめぐるランキング好きは先祖代々変わらぬ性癖のようだ。
(毎日JP 2009-11)
八はいどうふ

めざしいわし
