蓮根の蒸しもの葛あんかけ
1 すり下ろした蓮根に塩少々をよく混ぜて、銀杏、たらばがに、枝豆を加える。
2 1を器に山形に盛りつけ、たらばがにの赤い部分を上に見せ、血の池に見立てる。
3 2を湯気が立った蒸し器で5分ほど蒸す。
4 だし汁、酒、みりんを熱し、葛を打って葛餡を作る。
5 茹でた百合根をほぐし、1片を花びら1枚として、蓮の花を形作り、柚の皮で蘂を作る。
6 葛餡をかけまわし、胡瓜をかつらむきにして作った蓮の葉を浮かべる。
7 蓮の葉の上に小麦粉、卵、塩、イカ墨パウダーを練ってくりぬき、茹でて作った蜘蛛を乗せる。
8 蜘蛛のお尻の部分から蓮の花に春雨を繋いで蜘蛛の糸にする。
【秋の文学】 芥川ジョン之介 『がもの糸』
ある日の事でございます。がもちゃんは宮崎の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池のふちを歩いているがもちゃんの頭は、みんな玉のようにまん丸で、そのまん中にある金色の玉からは、何とも云えない酸っぱい匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。宮崎は丁度朝なのでございましょう。
やがてがもちゃんはその池のふちに御佇みになって、水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。この極楽の蓮池の下は、丁度土建屋の倉庫に当って居りますから、水晶のような水を透き徹して、干からびたロボ寿司や生ゴミのようなおでんが、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。
するとその土建屋の倉庫に、ファンタダと云う男が一人、ほかの土建屋と一しょに蠢いている姿が、御眼に止まりました。このファンタダと云う男は、偽電凸スレをたてたり、大学の一般教養で現代国語を履修したりと、中年にもかかわらず一人でゆとり教育を受けた大間抜でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。と申しますのは、ある時この男が田舎道を珍走していると、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。そこでファンタダは早速ハンドル切って、踏み殺そうと致しましたが、「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。その命を無暗にとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ。」と、こう急に思い返して、とうとうその蜘蛛を殺さずに助けてやったからでございます。
がもちゃんは土建屋の容子を御覧になりながら、このファンタダには蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした報には、出来るなら、この男を宮崎牛オフに呼んでやろうと御考えになりました。幸い、側を見ますと、翡翠のような色をした蓮の葉の上に、宮崎の背赤後家蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。がもちゃんはその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か底辺にある土建屋の倉庫へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。
こちらは土建屋の倉庫のプラケースの上で、ほかの土建屋と一しょに、不味そうな肉をあさっていたファンタダでございます。何しろどちらを見ても、オヤジで、たまにそのくら暗からぼんやり浮き上っているものがあると思いますと、それは恐しい社長の肛門が迫るのでございますから、その心細さと云ったらございません。その上あたりは肉のほかは野菜も酒もなく、たまに聞こえるものと云っては、ただ土建屋がつく微なげっぷばかりでございます。これはここへ落ちて来るほどの人間は、もうさまざまな生ゴミ同然の不味いものに疲れはてて、文句を言う力さえなくなっているのでございましょう。ですからさすが大間抜のファンタダも、やはり炭火に落ちた脂の煙に咽びながら、まるで死にかかった蛙のように、ただもがいてばかり居りました。
ところがある時の事でございます。何気なくファンタダが頭を挙げて、倉庫の天井を眺めますと、そのひっそりとした暗の中を、遠い遠い天上から、銀色の蜘蛛の糸が、まるで人目にかかるのを恐れるように、一すじ細く光りながら、するすると自分の上へ垂れて参るのではございませんか。ファンタダはこれを見ると、思わず手を拍って喜びました。この糸に縋りついて、どこまでものぼって行けば、きっと珍走からぬけ出せるのに相違ございません。いや、うまく行くと、高学歴へはいる事さえも出来ましょう。そうすれば、もうゴシップガールのスレで締め上げられる事もなくなれば、メリ太郎に沈められる事もある筈はございません。
こう思いましたからファンタダは、早速その蜘蛛の糸を両手でしっかりとつかみながら、一生懸命に上へ上へとたぐりのぼり始めました。元より後先のことを考える頭はございませんから、こう云ううまい話には、すぐに飛びつくのでございます。
しかし土建屋の倉庫の焼肉と極上の宮崎牛との差は、何万円となくございますから、いくら焦って見た所で、容易に買うことはできません。ややしばらくのぼる中に、とうとうファンタダもくたびれて、もう一たぐりも上の方へはのぼれなくなってしまいました。そこで仕方がございませんから、まず一休み休むつもりで、糸の中途にぶら下りながら、遥かに目の下を見下しました。
すると、一生懸命にのぼった甲斐があって、さっきまで自分がいた土建屋は、今ではもう暗の底にいつの間にかかくれて居ります。それからあの女の子が写っている恐しいジョンのスレも、足の下になってしまいました。この分でのぼって行けば、莫迦にされるキャラからぬけ出すのも、存外わけがないかも知れません。ファンタダは両手を蜘蛛の糸にからみながら、ここへ来てから何年にも出した事のない声で、「底辺ですね。」と笑いました。ところがふと気がつきますと、蜘蛛の糸の下の方には、数限もない土建屋たちが、自分ののぼった後をつけて、まるで蟻の行列のように、やはり上へ上へ一心によじのぼって来るではございませんか。ファンタダはこれを見ると、驚いたのと恐しいのとで、しばらくはただ、莫迦丸出しで大きな口を開いたまま、眼ばかり動かして居りました。自分一人でさえ足りなそうな、この小さい宮崎牛が、どうしてあれだけの人数の食欲を支える事が出来ましょう。もし万一途中でなくなったと致しましたら、折角ここへまでのぼって来たこの肝腎な自分までも、元の不味そうな焼肉へ逆落しに落ちてしまわなければなりません。そんな事があったら、大変でございます。が、そう云う中にも、土建屋たちは何百となく何千となく、まっ暗な低学歴の底から、うようよと這い上って、細く光っている蜘蛛の糸を、一列になりながら、せっせとのぼって参ります。今の中にどうかしなければ、糸はまん中から二つに断れて、落ちてしまうのに違いありません。
そこでファンタダは大きな声を出して、「こら、底辺ども。この宮崎牛は己のものだぞ。お前たちは一体誰に尋いて、食いに来た。下りろ。下りろ。」と喚きました。
その途端でございます。今まで何ともなかった蜘蛛の糸が、急にファンタダのぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて断れました。ですからファンタダもたまりません。あっと云う間もなく風を切って、独楽のようにくるくるまわりながら、見る見る中に生ゴミの底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。
後にはただ宮崎のがもちゃんの頭が、きらきらと強く光りながら、月も星もない空の中途に、煌々と光っているばかりでございます。
がもちゃんは宮崎の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがてファンタダが土建屋の倉庫へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになり始めました。誰も信じない嘘をついて莫迦扱いからぬけ出そうとする、ファンタダの無分別な心が、そうしてその心相当な罰をうけて、元の生ゴミへ落ちてしまったのが、がもちゃんの御目から見ると、浅間しく思召されたのでございましょう。
しかし宮崎の廃人オフは、少しもそんな事には頓着致しません。その玉のような料理は、がもちゃんの寿司小皿のまわりに、ゆらゆら香りを漂わせて、そのまん中にある銀色の新子からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。宮崎ももう午に近くなったのでございましょう。

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