韓国ではICGTというパワー半導体を使ったHSR-350Xという高速試験車両を作ったが、IGCTという素子が燃えるトラブルが発生し、利用を断念した経緯があるという話はご存知だろう。

韓国発の高速鉄道試験車両HSR-350XにはIGCT素子が使われた
IGCTとは"Integrate GCT"の略で、そのGCTはGTOの改良版であり、IGCTは、そのGCTを発展させたものである。
そしてそのGCTは日本の三菱が1995年に発明した半導体素子であると日本のWikipedia(サイリスタの項)には記載されている。
IGCTの利用は、ヨーロッパのABBという会社が熱心であるが、鉄道分野に強いABBでさえ、IGCTを鉄道への応用に成功させたという話は聞かない。最新式のTGVもIGBTを使用しており、IGCTは鉄道分野では産業的な地位を確保できなかったとみるべきだろう。
しかし、いろいろと調べると、チェコ鉄道のClass 560(1966-1971製造)を使ってIGCTのテストを行っている。行った期間は1997年から2003年である。GTOより電力損失が少なく、IGBTより高電圧に耐えることから、チェコ鉄道のテストを知った韓国が、我々でもと思ったのかもしれない。

韓国より先にチェコ鉄道のClass 560でIGCT素子のテストが行われた
ではなぜ、HSR-350Xに使われたIGCTは燃えたのか?燃える現象は、IGCT以前のGTOを使ったヨーロッパの電気機関車でも時々起こる現象だった。理由のひとつが、宇宙線の影響である。半導体素子に宇宙線があたると大電流が流れて壊れる。パソコンなどのメモリーにおいても宇宙線の影響はあるが、ECC付のメモリーのように誤り訂正さえすれば大丈夫というわけには、いかないのが、パワー半導体の怖いところだ。
IGBTに話を移す。いまや家庭電化製品にも普通に用いられているIGBTであるが、アメリカではRCAが1980年に特許を出願し、1983年にGEから製品が発売されている。実は、日本では、アメリカより12年も前の1968年にIGBTの特許が成立している。特許を出したのは三菱電機であり、世界的にもIGBTのパイオニアは、日本人だとされている。
製品としてはアメリカに先に越されたが、発売されたGEの製品は、すぐに壊れて使い物にならないレベルだったらしい。
その使い物にならないIGBTを使い物になるレベルにしたのが東芝で、"Non-Latch-Up IGBT"という名前で素子が破壊されにくいものを1985年に発売している。東芝のこの改良は、2010年にIEEEの賞を受賞する栄光に輝いている。
http://www.ieee.org/about/news/2010/2september_2010.html
また、三菱電機は、2000年以降にIGBTをIPM(インテリジェントパワーモジュール)という形にして、さらに壊れにくいものにして、信頼性を向上させている。このように、安心して使える工業製品として日本企業が改良したことにより、他の色々なパワー半導体を退けて、IGBTが多く使われるようになったと思われる。
東芝では、大電力に弱いIGBTを改良してIEGT素子というものも発明しており、東急の5080系、N700系の一部、中国向けの機関車、トルコの通勤電車等に採用されているようだ。

東急の5080系には、東芝のIEBT素子が使われている
三菱でも、大電力に改良したIGBTをHVIGBT(High Voltage IGBT)として開発しており、また、鉄道には用いていないが改良したGCT素子を使ったモジュールも電力会社や鉄鋼会社向けに販売している。これら三菱の製品は、実際は、IEGTやIGCTかもしれない。名前を変えないのは、IGBTやGCT素子の発明者だからだろうか?